COO MESSAGE

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地元地域の発展に貢献し勇気ある挑戦と付加価値
の創造で
顧客の信頼を獲得する

糸井 義彦
取締役
建設業における技能労働者の課題

今、日本のものづくり産業を支えてきた熟練技能者の高齢化が加速しています。団塊世代の熟練技能者が引退を迎えることで技能労働者が不足するというニュースを一度は聞いたことがあると思います。国土交通省(2015)によれば、10年後の2025年には技能労働者数が50万~100万人不足すると試算されています。
工期設定が厳密な建設業では技能労働者不足が進むと商品やサービスの品質低下や工期延長の発生が予想されますので、技能労働者の確保は最重要課題です。しかし、建設会社にとっては大勢の技能労働者を集めればそれで良いというものでもありません。
私は前田建設工業株式会社に勤務し、岩手県釜石市の震災復興工事に従事していました。震災復興の最前線での仕事はやりがいがあり、先進的な施行技術やプロジェクト管理手法を多く学びました。一方、日本中で職人の高齢化が進み若手技能者不足が深刻である現状を知り、実家の事業の行く末を案じるようになりました。地域の建設業界を支えている多くの中小建設業者が元気でなければ、日本の建設業界の未来は暗いものとなります。私は志ある職人を集めるとともに職人のスキル向上と年収アップを実現していくために、家業を引き継ぎ企業へと発展させる決意をしました。

建設業界、特に下請けの専門工事業者では「各現場に職長1人の組織」が主流です。チームの大半は職長(リーダー)1人とフォロワー数人で成り立っており、フォロワーのワークスタイルは2つに分類されます。

①職長の指示どおり細切れに仕事をこなす「指示待ち職人」
②自ら考えて高品質の仕事をやり遂げるが、チームマネージメントには興味がない「一匹狼スキル職人」

職長に忠実な「指示待ち職人」は問題が発生する度に職長を頼ります。フォロワー全員が「指示待ち職人」ですと、問題が発生するたびに職長の判断を仰ぐことになり、職長は指示やアドバイスに多大な時間と労力を費やすことになります。こうなりますと職長はプロジェクトマネジメントに時間を割けなくなり、プロジェクト全体に悪影響を及ぼすことになります。日本の建設業は多重下請け構造になっており、いわゆる「一人親方」が大勢います。この「一人親方」も「指示待ち職人」になる可能性が高く、建設業界の生産性と年収を低下させる要因になっていると考えます。また海外からの実習生が年々増加していますが、彼らは3年ないしは5年で一定の技術力と日本語を身につけると帰国してしまいます。数年間の修行では優秀な方でも細切れ技術の習得が精いっぱいであり、「指示待ち職人」レベルで帰国してしまうことは何とも残念なことです。

「一匹狼スキル職人」も建設業界の生産性低下、職人の低収入を招く根源となります。プロジェクトはチームで遂行していくものです。自分の受け持つ仕事において精一杯価値ある成果を出すことは大事ですが、建設現場においては各メンバーがチーム全体を見渡した上で自分のやるべきことを見極め、フォロワーどうしの協力体制を築きながらチームのプロジェクトを進めていくことが重要です。

熟練技能者の不足問題に対して単なる労働力を確保するだけでは、建設業界に根強く残るこれらの問題を解決することはできません。労働力を確保した上で、一人一人の技術力向上はもちろんのこと、責任感のある職人、職長(リーダー)となれる職人を多勢育成することが現在の建設業界における大きな課題であると考えます。

リーダーシップのある職人が必要である

そもそも職長とはどのような人材なのでしょうか?建設現場では「段取り8割」ということばが良く使われます。段取りが上手な職人が良い職人であり、良い職長(リーダー)だということです。職長には、技術力、プロジェクトマネジメント力、リーダーシップ力、人間力の4つの力が必要ですが、私はリーダーシップ力が最も重要だと考えています。例えば、「今日の作業はこの範囲の鉄筋組立作業を行います。鉄筋数量10tを使用し3名×5日で仕上げるためにこのような工程で行います。」と決定できるのがリーダーシップです。文字で書くと簡単ですが、これを即座に決めて作業を開始するためには豊富な経験に基づいた段取り力が必要です。強いリーダーシップを取らないとコワモテ職人や外国人に指示しながら円滑に現場作業を進めていくことが困難になります。

「職長1人で他は全員フォロワー」のチームと、各メンバーが「 自分もチームの職長であり、 個人成果を出すことはもちろんのこと、チーム全体をまとめる手伝いをし結束力を高めることも自分の責務である。」と意識しているチームを比べてみてください。1人親方が寄せ集まったような前者チームには高い生産性は望めませんが、後者チームは圧倒的に生産性が高くなると容易に想像できます。建設業界の課題を解決するためには、一人一人が「良い職長」になる必要があり、各企業において「良い職長」を育てる取り組みや環境づくりが大切だと考えます。

糸井商会の2つの取り組み

どのように「良い職長」「良いチーム」を作り出すのか?糸井商会は2つの取り組みを推進しています。
ひとつは「管理会計による原価計算」です。良い職人がいる会社・チームには、明確な目標が定められているものですが、多くの会社はドンブリ勘定で正確な原価を把握していません。弊社では管理会計チームが工事ごとの原価管理と利益率を算定し、チーム全員が共有しています。目標設定することで各チームに効率主義の文化が生まれ、労働意欲の向上につながります。なおリーダーシップと効率主義は切り離せない関係にあり、両者の相乗効果によりチームの生産性がさらに高まります。
もう一つは「リーダーシップOJT制度」です。この制度は職長(リーダー)を育てる制度です。はじめに、3年後に一人前の職長(リーダー)として現場をマネジメントすることを目標として取り組むべき具体的なアクションプランを立てます。そして、できるだけ早いタイミングで結果責任の問われる環境(職長と同じ立場)を与えて実践的に経験を積むことでリーダー力をつけていきます。定期的に職人のリーダーシップ力を評価し、必要に応じて軌道修正しながら設定目標に到達できるように支援していきます。

以上、「管理会計によるチームの目標設定」「職長(リーダー)の育成制度」を2本柱として、糸井商会は『全員が職長(リーダー)のチーム』を目指します。さらにチームのプロジェクト遂行に必要なITと設備の投資も適宜行っていきます。

リーダーシップに優れた職人を育成し建設業に貢献する

日本の建設業が抱える課題はもはや日本人だけで解決できるものではありません。若手技術者の不足により海外からの人材を調達することが不可避となっており、グローバルな視点で対策を講じていく必要があります。また、今までのように職人が目の前の仕事をやり切れば終わりという考え方では、建設業が伸び悩む時代がもうそこまで来ています。これからの建設業界において、建設現場の生産性を高め職人の待遇改善を推進するためにも、職人の労働意識改革とリーダーシップの向上が必要不可欠です。

糸井商会は『社員全員が良い職長』精神に基づき、一人ずつが自負心を持って活躍できる会社を実現するために時間をかけながらもチャレンジしていきます。そして、『糸井商会の全員職長メソッド』が建設現場の生産性を高めるスタンダードとして多くの建設会社に広がり、地元地域ひいては日本全体の建設業の活性化に貢献できるように成長させていきます。大きな未来像ではありますが、私どもと共に創っていける方を心からお待ちしています。